開かれたネット世界、アジア太平洋経済の活力源

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シェリル・サンドバーグ氏(同社提供)

シェリル・サンドバーグ氏(同社提供)

米フェイスブックのシェリル・サンドバーグ最高執行責任者(COO)は20日からオンラインで開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に合わせ、日本経済新聞の英文媒体「Nikkei Asia」に寄稿した。全文は次の通り。英文は「Nikkei Asia」のサイト(https://asia.nikkei.com/Opinion/How-an-open-internet-can-power-Asia-Pacific-s-economic-recovery)に掲載しています。

ギデン・リム氏は幼い頃、母親の生花店を手伝いながら、よく外へ出ては路上で花を売っていた。同氏はこのとき、母親が持つ起業家精神と花への情熱に大きな感銘を受けた。

のちにリム氏は、当時の婚約者で現在は配偶者のペニー・チュー氏と共にBloomThis(ブルームディス)を創業した。両氏は、当日配送とサブスクリプション(継続課金)に特化したオンライン生花店に商機があると考え、そのニッチを埋めようと決意したのだ。ともに成長企業を築いた2人は、本拠地のマレーシアだけでなく海外でも良いリピーターの顧客基盤を構築しようと日夜励んでいた。

だが、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)がマレーシアに襲来すると、ブルームディスは結婚式やイベントの中止で需要が落ち込み、移動制限で花が輸入できずに供給も干上がるというダブルパンチを受けた。収入が9割も減少して創造力を働かせる必要に迫られた両氏は、新商品を開発し、パーソナライズド(個人に最適化した)広告を使って宣伝した。そして今や売り上げは昨年を上回り、明るい見通しを取り戻している。

リム氏とチュー氏のエピソードは、パンデミックで加速している世界的な長期トレンドを示す典型例だ。人々がオンラインでの交流や仕事、買い物、ゲームなどにますます多くの時間を費やすのに伴い、そうした顧客を取り込もうとサービスをオンラインに移行する企業が増えている。両氏はこうした変化をブルームディスの創業当時から認識していたため、この困難な年にあってもデジタルツールを活用することで顧客に訴求できたのだ。

フェイスブックの各サービスでは毎日、このようなデジタルトランスフォーメーション(DX)が展開されている。数十億人もの人々が、物理的には離れていてもフェイスブックやインスタグラムでつながっている。パンデミックが拡大するなか、フェイスブックでは、我々のコミュニティーで最も弱い人たちを助けるために何千ものグループが立ち上がり、数百万人が集まった。医療従事者に称賛と支援を送るグループや、マスクを手作りするグループ、支援物資を集めて送るグループも作られた。

ロックダウン(都市封鎖)期間中にブルームディスが経験したような制約下での営業や休業を余儀なくされた多くの企業にとって、フェイスブックやインスタグラムは生命線だった。そうした例はオンラインで注文を受けるレストランから、ネットを使ったバーチャルでトレーニングを指導するスポーツジム、それにライブストリーミング(生配信)で公演を開くパフォーマーまで多岐にわたる。

アジア太平洋地域の首脳や閣僚が参加する毎年恒例のAPECは今週、まさにデジタル時代で初めてのパンデミック下で開催されることになる。こうした背景によって、かつてないほど緊急で重要な課題になっているのが、今後数年間のインターネットと経済を形作るルールに関する議論だ。APEC加盟国の首脳や閣僚は、デジタル化による小規模事業者の危機から立ち直る力の向上や、データの流通の確保に向けた協力体制、デジタル取引に対する消費者の信頼の強化といったことの重要性を議論してきた。この方向性は正しい。

中小企業はAPECに加盟する国・地域の経済にとって国内総生産(GDP)の4~6割を占める原動力であるのと同時に、フェイスブックにとっての原動力でもある。我々の無償ツールは、毎月2億を超える事業者がバーチャルな店舗での顧客との取引に利用している。1千万を超える広告主も利用しており、その大半はブルームディスのような中小企業だ。このような実例は、アジア太平洋やその他の地域の経済回復を促す上で、データドリブン(データ分析による業務推進)のツールを備えた電子商取引(EC)がいかに重要かを物語っている。

ブルームディスのような企業を成功に導いた隠れた要因は、データを安全かつプライバシーが保護された状態で利用するパーソナライズド広告だ。DXが進むなか、こうした企業は経済回復の原動力になりうる。ただし、それが実現するためには、消費者や海外市場とつながる際に頼れるデータドリブンのツールが今後も存在し続けなければならない。

今回のパンデミックは、人のつながりや国境を越えた協力、開かれたインターネットが生み出す収益機会の価値を証明した。だが我々は、これらをあって当たり前のものだと考えることはできない。開かれたインターネットが今後も確実に存在するとはとても言えないからだ。

いわゆる「データ主権」を行使して国民をデジタルの壁で囲ったり、そのような方向に進むことを真剣に検討し始めたりしている国は多い。こうしたデジタル保護主義への方針転換は自滅的だ。グローバルなインターネットが細分化されて国家や地域が孤立するサイロ化を招きかねず、アジア太平洋地域の企業や経済回復に害を及ぼす恐れがある。国境を越えてつながれることは、強いデジタル経済の基盤だ。それは守り、強化すべきであり、デジタルの国境を新たに引いて制限すべきではない。

政府とテック企業などは、人々のプライバシーを保護して被害を防ぎながら開かれたインターネットの最良の部分を守ることに協調して取り組まなければならない。そのようなデジタル経済の未来には、すべての人に参加の機会が与えられるべきだ。誰もが経済的な活躍の機会を得られるようにするには、デジタルリテラシー向上のためのプログラムに投資し、オンライン教育を発展させ、遠隔地でのインターネットの接続品質を改善させる必要がある。

それは女性の地位向上にも決定的に大きな意味を持つ。巨大な男女格差がずっと昔から存在していたことに加え、パンデミックで受けた影響も女性のほうが大きかった。女性は男性よりも他人をお世話する仕事に責任を持つケースが多く、解雇や減給の対象にされやすく、心理的に打ちのめされたりストレスや不安を感じたりしやすい。だからこそAPECが経済的なエンパワーメント(活躍機会の拡大や地位向上)を進める行動計画の中心に女性を掲げたことは非常に重要なのだ。

ともに開かれたインターネットを守って強化し、誰もが恩恵を受ける力強い経済回復のための条件作りで協力し合えれば、我々は今後のアジア太平洋地域に活力をもたらす繁栄したデジタル経済を築き上げることができると私は確信している。

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