「ふるさと副業」に熱気 地域をまたいでリモート勤務

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リクルートキャリアが東京で開催した「ふるさと副業」イベント(2018年に撮影)

リクルートキャリアが東京で開催した「ふるさと副業」イベント(2018年に撮影)

地方企業が都市部の専門人材に熱視線を送っています。生活の拠点は都市部に置いたまま、リモートワークを活用して、地方企業を副業の場としてもらおうというのです。新型コロナウイルスの感染拡大でテレワークが全国に広がりました。非対面でも仕事がこなせると実感した地方企業が、都市部の人材に目を向けた格好です。

求人サイトを運営するウォンテッドリーでは、8月時点の地方企業による副業人材の求人は、コロナ前の今年1月の3.26倍に達しました。中心はエンジニアやデジタルマーケティングなどの専門人材です。こうした人材は都市部に集中し、地方では求人を出してもなかなか見つかりません。「今までなら地方企業は採用をあきらめていました。本業の傍ら、リモートワークを駆使して専門性を発揮してもらうことを期待しています」(同社広報担当)

地域経済活性化につながるとして自治体も動きます。新潟県は都市部人材と県内の中小企業のマッチング事業を、年内にも開始します。民間企業に業務を委託し、求人情報をネット上で公開するほか、副業に関心を持つ都市人材のオンラインコミュニティーを立ち上げます。「社員として雇うより人件費コストが抑制できます。U・Iターン転職者を受け入れるより、副業者の方が企業もリスクを抑えて受け入れられるでしょう」(県創業・経営支援課)あわせて読みたい理想のスマートシティーは? デジタルで変わる職と住都会っ子が「地方公立校に留学」ブーム 寮や研修充実

働く側の雇用環境変化も見過ごせません。新型コロナウイルスの影響で業績が悪化し、業務量が減った企業では、社員に兼業・副業を認める動きが広がっています。内閣府の意識調査によると、コロナ禍をきっかけに「副業を持った」人は2%、「新たに副業を検討しはじめた」人も9%と、約1割が副業への関心を高めました。

リクルートキャリア(東京・千代田)は、ふるさと納税になぞらえ、都市居住者が地方で副業することを「ふるさと副業」と命名し、2018年からマッチング事業を展開してきました。報酬は専門性や拘束時間などにより千差万別ですが、比較的多いのは月20~30時間程度の業務量で月額5万~10万円程度だといいます。平日の夜間や週末でこなせる負担感です。

リクルートキャリアの古賀敏幹マネジャーは「地方企業で副業する目的は金銭的報酬だけではない」と説明します。生まれ育った故郷への恩返しの気持ちや、本業で経験できない仕事へのやりがいも、都市居住者を地方での副業に駆り立てるといいます。「交流人口が増えれば地方も活性化します。今後新しい働き方として定着していくだろう」とみています。

古賀敏幹・リクルートキャリアマネジャー「都市と地方の関係人口を増やすきっかけ」

コロナ禍で広がったテレワークは、様々な働き方に道を開きました。都市部を生活の拠点にしながら地方企業で副業する地方副業もその1つです。地方は熱視線を送りますが、今後定着するのでしょうか。現状と課題をリクルートキャリアの古賀敏幹マネジャーにうかがいました。

――2018年に「ふるさと副業」と命名し、地方と都市居住者のマッチングビジネスを始めたそうですね。リクルートキャリアの古賀敏幹マネージャー

「もともと副業に関心がありました。人生100年時代を迎え、1つの会社で職業人生を終える終身雇用はいずれ廃れます。不確実性が高まる社会では道を1つに絞り込むのも危険です。複数の選択肢を持つことでリスクも回避できます。本業を持ちながら、ほかの仕事で稼いだり経験を積めたりする副業にその可能性を見いだしました」

「経営サイドと働く側。双方に需要がある副業は何だろうと考え、ふるさと副業に至りました。日本は人口減少が続き、地方から都市部への人口流出も止まりません。地方の人手不足は大きな課題です。特にIT(情報技術)やウェブデザイン、マーケティングといった専門人材は都市部に集中し、地方ではこれらを担える人材が限られています。優秀な人材の採用ができずに地方企業は悩んでいました。一方、働く側では副業への関心がここ数年高まっていました。転居を前提としたU・Iターンはハードルが高くとも、都市と地方をときどき行き来する程度の副業なら受け入れられやすいと思いました」

――報酬はどのくらい得られるのですか?

「専門性や拘束時間、難度などにより、報酬は様々です。比較的多いのは月20~30時間くらい要する業務量で月額5万~10万円程度です。基本的に地方企業と業務委託契約を結びます。最初の打ち合わせや要所では対面を求められることもありますが、通常はリモートで仕事をこなします。オンライン会議や電子メール、チャットを駆使して都市部に暮らしながら働けます」

「隙間時間で稼げるのが副業の良さでもありますが、報酬目的の方ばかりでもありません。働きがい重視が意外と多数います。もともと地方出身で進学・就職で都市部に出てきた方などです。都市で身に付けた専門知識や能力を地方に返したいと願っています。私たちが仲介した事例では、東京のベンチャー企業で事業開発を担当する男性が、出身地である福岡県の博多織の会社に副業で従事。高い伝統技術の情報発信を手助けし、東京での営業拡大に寄与しました」

「地方企業は彼らに即戦力の働きも期待します。その分、責任は重大ですが、商品紹介サイトの運営や都市部への販路拡大など目に見える形で事業に貢献できます。本業ではあまり担えない大きな役割を果たせることが働きがいになり、副業する原動力にもなっているようです」

――地方企業は最初から都市人材を副業で受け入れることに積極的だったのですか?

「ふるさと副業はリモートワークを前提に設計しています。全国の自治体や企業を当初回ったときは、反応は芳しくありませんでした。都心部の優秀人材を紹介できると伝えても、非対面で仕事が支障なくできるのかが不安だったのです。日常的に会わないにしろ、困ったときはすぐに会える距離ではないと仕事は任せられないと企業は二の足を踏みました。自治体を巻き込んだりして徐々に成功事例も増やしていましたが、なかなか事業は広がりませんでした」

「地方企業の意識はコロナ禍で大きく変わりました。地方経営者もZoomなどのビデオ会議を使うようになり、非対面での仕事のやり取りのハードルが一気に下がった印象です。緊急事態宣言が出ていた4~6月はさすがに企業の引き合いも落ち込みました。ただその後は都市人材を活用できるチャンスだと受け止めているようで、ふるさと副業への追い風を感じます」

――このまま定着するのでしょうか?

「課題もあります。その1つは企業側が自社の抱える経営課題解決に必要な業務を適切に切り出し、求人できるか否かです。関心を持ってもらえることは良いのですが、『都市の専門家なら何でも解決してくれるはず』と副業人材に過大な期待を持つ地方企業も少なくありません。だけど副業人材は万能ではありません」

「1つ事例を紹介します。売り上げが伸び悩んでいる地方企業にウェブマーケティング人材を紹介してほしいと相談されたことがあります。オンライン販売サイトを運営し、販路を拡大したいという希望でした。でもその会社の商品は主に地域のシニアがターゲット。ネットにサイトを開いても売り上げ増加は望めそうにありませんでした。紹介しようと思えば紹介できました。でもうまくいかないであろうことは予想でき、そうした失敗事例が増えてしまうと『やっぱり副業人材は使えない』と誤解されてしまいます。都市には地方にいない人材が確かにいます。でも企業側が経営課題をしっかり分析するなり、マッチングをコーディネートできる仲介者がいないと副業人材を使いこなせません」

「都市部への人口集中を是正することは容易ではありません。とはいえ現状のままでは地方は廃れていってしまいます。ふるさと副業は、都市と地方の関係人口を増やすきっかけになります。地方創生のためにも今後広がることを期待します」

(編集委員 石塚由紀夫)

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