シニア雇用、実力本位で選別 「70歳まで」来春から

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アジア拠点と結んだテレビ会議で話し合う希代博文さん(10月14日、東京都品川区の明電舎本社)

アジア拠点と結んだテレビ会議で話し合う希代博文さん(10月14日、東京都品川区の明電舎本社)

70歳までの就業確保を企業の努力義務とする改正高年齢者雇用安定法が、来春施行される。企業は個々のシニア社員の専門能力などを精査し、選別雇用を始めている。管理職を務めたシニア社員であっても、意識を変えて第一線の現場で成果を出すことが求められる。先行事例を追った。

■定年退職前と同様に年20回、海外出張

10月14日、東京都品川区の明電舎で希代博文さん(68)は部長や担当者と共にタイ、シンガポール事務所を結ぶテレビ会議に参加していた。肩書は社会システム事業部技術部シニアエキスパート。同社と関係会社に65人いる65~71歳の「エルダー社員」の一人だ。

この日のテーマはタイで納入した製品を円滑に稼働させること。「2時間15分かかってしまった」と苦笑する。1年契約で週5日フルタイムで勤務し、コロナ感染症拡大まで年20回はアジア諸国に出張。60歳定年(当時)での退職前とほぼ同じ働きぶりだ。

希代さんは大学電気工学科を卒業後、変電設備のシステム設計で経験を重ねた。アジア地区現地法人社長や本社部長も経験したが、会社が今評価しているのは、数少ない特別高圧変電設備のスペシャリストとしての力。希代さんは「国内外の社員を育て、ノウハウを残し、海外受注事業のサポートをすること」と、役割を明確に意識している。

■70歳までの就業確保が企業の努力義務に

改正高齢法は65歳まで雇用することを義務付けた現行法に、70歳までの就業確保を努力義務とすることを加えたものだ。改正法に伴う、定年廃止などの就業確保措置のうち、最も定着しそうなのは継続雇用だ。どんな内容の労働契約を用意するかは労使間で決める。

改正法施行を前に退職者の能力を見極め、複数用意した処遇に当てはめ継続雇用する例が出始めている。

4月に定年を65歳に引き上げた明電舎の場合、エルダー社員になれば75歳までの契約更新が可能。基本的に会社の選択で決まる。西山充彦人事企画部長は「会社に必要なノウハウを持つ人を部門長が人事に推薦し、本人の希望を聞いて決める。技術系が多いが、事務系は管理能力ではなく財務や法務の専門能力や資格を持つ人などがエルダーになりやすい」と話す。

300人の顧客を相手に年齢制限なしで働ける井上達人さん(大和証券横浜支店)

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300人の顧客を相手に年齢制限なしで働ける井上達人さん(大和証券横浜支店)

一方、シニアの営業力を重視するのは大和証券だ。「大和マスター」「上席アドバイザー」の2つの社内資格を持つ井上達人さん(61)は、横浜支店で個人営業に奮闘する。

井上さんは彦根支店長や名古屋支店資産コンサルタント部長などを経験後、55歳で本社コンプライアンス部門に移った。それでも「32年過ごした営業部門に戻りたい」と強く希望し、定年の60歳を前に横浜支店に異動した。

担当している個人客は約300人。「自分を選んでくれた顧客に喜んでもらうのが目標。投資信託など新規に買ってもらうため1日3軒は回らねば」と話す。

大和証券の2つのシニア向け社内制度は、どちらも会社からの要請が原則だ。大和マスターは定年の60歳に達した全社員が対象。高島正行人事部次長は「45歳以降どれだけ自律的に能力開発をしたかや業務成績で対象者を選ぶ」と話す。半数程度がマスターになる。一般再雇用者の契約上限年齢が、高齢法の経過措置で現在63歳となるのに対し、マスターは65歳だ。

上席アドバイザーは在職中から得られる営業員専用資格。契約上限年齢に制限がなく、給与も大和マスターや一般の再雇用者より優遇されるなど継続雇用後の違いが大きい。年齢と無関係に実力相応の処遇で応える制度だ。

■厳密に問われる実績、誰もが対象ではなく

大手企業では昭和末から平成初期に大量採用した層が今後続々と退職期を迎える。一方、不況で採用を絞った現在の30代後半~40代社員は不足し、人口減により今後の採用増も厳しい。

専門能力や営業力に優れたシニアを第一線に配置する動きは、改正高齢法をにらんで広がるだろう。ただ、実績が厳密に問われ、誰もが対象になるわけではない。シニア社員は、従来のようにマネジメント能力ではなく、あくまで現場の実力本位の選抜になることを意識する必要がある。評価の正確さが大切に

高齢者雇用に詳しい浅野浩美・厚生労働省職業指導技法研究官の話 継続雇用のシニアに、現場で成果を出すよう求める姿勢は企業規模に比例して強まる。2018年の高齢・障害・求職者雇用支援機構の調査で60歳以上の社員に期待する役割を聞いたところ「担当者として成果を出すこと」と答えた企業は46%。301人以上に限れば53%に上昇し、30人以下の企業より9ポイント高かった。

 大企業ほど高齢の社員が多く、窓際族が言いはやされた1980~90年代のように、気軽に雇い続ける余裕はないためだ。専門性や営業力で継続雇用時の処遇を分けるときに大切なのは評価の正確さだ。研修や上司・人事担当者との面談で処遇に納得が得られるようにすることが重要になる。

(生活情報部シニアライター 礒哲司)

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