グリーンランドの氷床が急減 1万年で例を見ない速さ

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グリーンランドの氷床が急減 1万年で例を見ない速さ

グリーンランド氷床の現在の融解速度は、自然のサイクルの一部としては速すぎると科学者らは言う。氷床がすべて融解すると、地球の海面は約7.4メートル上昇する見込みだ(PHOTOGRAPH BY MARTIN ZWICK, REDA&CO/UNIVERSAL IMAGES GROUP/GETTY IMAGES)

今世紀中にグリーンランドの氷床(地表を覆う氷の塊で規模の大きいもの)の融解は、完新世が始まって以来、例のない速さで進むようになる。そんな警戒すべき予測が、最新の研究で明らかになった。完新世とは、人類の文明が発展したこの1万2000年間のことだ。

2020年9月30日付で学術誌「ネイチャー」に発表された論文は、グリーンランドの氷床が急速に減る時期に入っていることを、最新の証拠に基づいて明らかにした。グリーンランドの氷床には、全て解ければ地球の海面を約7.4メートル上昇させるだけの水がある。人類が現在のペースで化石燃料を燃やし続ければ、氷床が完全に融解してしまう可能性があるという。

また、過去と比べても現在の融解がいかに速いかを示し、近年のグリーンランドの氷床融解を自然のサイクルの一部と見なす考えを否定した。あわせて読みたい89年ぶり気温54.4度を記録 地球はどこまで暑くなる?マイナス94℃! 地球最低気温、南極高地で記録

「過去1万2000年に及ぶ自然な変動を考慮しても、今世紀は過去に例のない特異な時代になることを確信しています」。論文の筆頭著者で、米ニューヨーク州立大学バッファロー校の雪氷学者であるジェイソン・ブライナー氏はこう述べている。

過去と未来をつなぎ合わせる

過去40年間、北極の温暖化の影響を受け、グリーンランドの氷床は加速度的なペースで減ってきた。だが、この傾向を長期的な視点でとらえるためには、数千年分の氷床の成長と後退の記録が必要となる。

かねて科学者たちは、完新世におけるグリーンランドの氷床量の変化を知ろうと試みてきた。その際、過去の気温の目安として一般的に用いられるのは、氷床コア内部の「酸素18」という同位体(普通の酸素より重い酸素原子)だ。

だが、こうした分析の大半では、1つの氷床コア(氷床を掘削して採取した柱状の試料)だけからグリーンランド全体の気候状況を推定していたため、不確実さがつきまとっていた。また今までの研究では、グリーンランドの過去の再現モデルと、今世紀に融解する氷床の量の予測をつなぎ合わせてこなかった。

「グリーンランドの氷床の過去をモデル化した研究も、未来をモデル化した研究もありました」とブライナー氏は言う。「しかし、過去から未来までの全体像を、一貫して同じモデル、同じ手法を用いて推定した研究はありませんでした」

ブライナー氏のグループは今回、両者の隙間を埋めるとともに、より高度な手法でグリーンランドの氷床融解の歴史を再現した。まず、グリーンランド各地から採取した複数の氷床コアから得られた気温と降雪量のデータを、氷床モデルに組み込んだ。次に、気候モデルによる情報を氷床全体に適用した。

そうして構築したモデルを使い、1万2000年前から西暦2100年まで計算を走らせた。その結果、現在のグリーンランドの氷床融解が、完新世の始まり以降に生じた他の融解より突出して速いペースであることがわかった。

「このようなペースで変化したことはない」

「完新世の気候最温暖期」として知られる1万年前~7000年前にかけての温暖化では、グリーンランドの氷床が大幅に縮小した。特に極端な時期には100年間で約6兆トンもの氷床が融解した。実は現在、それに匹敵する事態が進行中だ。もし2000~2018年の平均的な融解速度が今後も続けば、グリーンランドの氷床は今世紀に6兆1000億トン失われると予測されている。

だが、この6兆1000億トンという予測ですら控えめだった。大気中の炭素量が増え続けるにつれて、地球の温暖化は進行し、平均的な融解速度も加速し続けるだろう。2012年と2019年の夏には、気候変動に熱波が追い打ちをかけ、膨大な量の氷床が融解したが、グリーンランドには今後もこのような極端な融解が生じる年が来ると考えられている。

炭素排出量が少ない場合と多い場合のシナリオを用いて、ブライナー氏らのモデルが描き出した氷床の未来では、人類が世界の炭素排出量をすみやかに減らす楽観的な「RCP2.6シナリオ」の場合、グリーンランドが今世紀中に失う氷の量は約9兆7000億トンと推定された。だが、化石燃料を無節制に燃やし続ける「RCP8.5シナリオ」なら、今世紀に約21兆トンの氷が融解する可能性がある。これは、過去1万2000年で最も速かったときのおよそ4倍の速度と推定される。

後者は悲観的なシナリオとみなされているが、グリーンランドの最近の氷床の減少を考えると、最も現実に近いシナリオだ。また、RCP8.5の下ではグリーンランドの氷がわずか1000年以内に消失するとした、2019年に学術誌「Science Advances」に発表された別の論文の結論とも合致している。

米国立雪氷データセンター(NSIDC)の雪氷学者テッド・スカンボス氏は、この研究について、「過去の記録、現在の測定、そして将来の予測にまで及ぶモデル化という、3つの要素の優れた融合です」と評している。なお氏は今回の研究には関わっていない。

「さらにこの論文は、『これまでも地球は常に変化し続けてきた』と言いながら気候変動の影響を否定する人々に対して答えを示しています。つまり、『このようなペースで変化したことはない』ということです」

モデルの限界と次のステップ

ただし、この研究結果には重要な注意点がある。それは、モデルが扱う範囲をグリーンランドの南西部に限定し、その計算からグリーンランド全体の状況を推定している点だ。これには理由がある。南西部の氷床の融解は大部分が気温によって引き起こされているため、海水温の上昇や氷河の崩壊の影響が少なく、物理的特性が比較的シンプルで扱いやすいからだ。

とはいえ、モデルから導き出された氷床の減少は、過去40年間の観測データとほぼ一致しており、計算結果が裏付けられた形だ。それでも研究チームは次のステップで、モデルをグリーンランド全体に適用し、さらに、氷を解かしたり崩壊させたりするその他のプロセスも組み込みたいと考えている。

グリーンランド南西部は「近年、融解が著しく進んでいる地域のひとつですから、残りの氷床全体がどのように変化するのかを示す適切な指標です」とデンマーク気象研究所の雪氷学者ルース・モトラム氏は語っている。なお氏もこの論文には関与していない。

モトラム氏は、論文の著者たちが氷河モレーン(氷河が後退した後に残った岩石などの堆積物)を使い、モデルがはじき出した氷の増減が実際の証拠と合致しているかを確認した点に注目している。「現場の証拠とモデルの結果を組み合わせることで、過去の気候、ひいては将来の予測の信頼性が高まります」

一方、米アイダホ州にあるボイシ州立大学の雪氷学者エリン・エンダーリン氏は、グリーンランド南西部から氷床全体に推定を拡大するのは「ちょっと無理がある」と感じている。

「この論文では、現在の(氷の)質量が減る傾向が、南西部とグリーンランド全体とで似ているとされていますが、氷床の形状が現在と異なれば、この関係は長期的には成り立たないでしょう」とエンダーリン氏は指摘する。

多くの氷河が海に流出する大規模な氷床ならば、融解は「その氷河系固有の不安定さに大きく左右されるでしょう。この論文のように南西部の氷床をモデルとした減少パターンとは、一致しないかもしれません」と氏は言う。

グリーンランドの過去と将来をもっと詳細に解き明かすには、さらなる取り組みが必要だ。だが現時点でも科学者たちは、次のように確信をもって言えるだけの十分な証拠を集めているとスカンボス氏は話す。人類が針路を変えない限り、グリーンランドはおろか地球全体の気候が劇的に変わってしまうのだ、と。

「気候について言えば、私たちはアクセルペダルの上にレンガを載せてしまったようなものです」とスカンボス氏は言う。「私たちが変わらない限り、止めることはできません」

(文 MADELEINE STONE、訳 稲永浩子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

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