デジタル技術に限界あり 人を動かすのはハートと言葉

誰一人置き去りにしないために

デジタル技術に限界あり 人を動かすのはハートと言葉

人事のプロ、八木洋介氏に聞く

八木洋介people first代表は「三方よし」の大切さを説く

八木洋介people first代表は「三方よし」の大切さを説く

ニューノーマル(新常態)時代の幕開けとともに、世界や企業はどう変わるのか。私たち個人は、働き方と生き方をどう進化させる必要があるのか。米ゼネラル・エレクトリック(GE)の日本法人及びアジアの人事責任者やLIXILグループ副社長(人事・総務担当)を歴任したHR(人材)分野の第一人者、八木洋介people first(ピープルファースト、東京・世田谷)代表の視点を通じ、困難な時代を生き抜くヒントを提供する企画。2回目は「DX(デジタルトランスフォーメーション)」「VUCA」、そして「SDGs」という、最近よく目にする言葉の意味を考えてみよう。

<<(1)リーダーの本質、コロナで浮き彫り 台湾や独が指導力

DXという言葉が話題を集めています。もともとは、「IT(情報技術)が人々の生活をよい方向に変化させる」、という概念です。日本でも経済産業省がDX推進のガイドラインを取りまとめ、認知度が高まっています。

ここで注意したいのは、人工知能(AI)に代表されるITやデジタル技術の進化、DXが「すべてを解決してくれる万能な存在」ではないということ。AIに「コロナ問題はいつ収束しますか」と聞いても、答えは分からない。AIは過去に経験したことがない内容に対して、今のところ無力な存在です。あわせて読みたい【前回】リーダーの本質、コロナで浮き彫り強まる在宅志向、「週1出勤」も当たり前に

デジタル技術は大いに活用し、DXも進めるべきですが、一方で技術のどこに限界があるのか、徹底的に考えておくことを忘れてはなりません。デジタルがいくら発展しても、最終的に人や組織を動かすには、「価値観に働き掛けること」が欠かせません。人々のハートに呼びかけることが大切なのです。デジタルや技術の有効性と限界、そして人間との関係性をいま一度、きちんと理解しておくべきでしょう。

正論と思われるメッセージを発信しているにもかかわらず、人々の共感を得られない著名人やリーダーがいます。これは受け手の認知というものを蔑(ないがし)ろにしているからでしょう。

誰もが情報発信できるデジタルの時代に、リーダーシップを発揮したいというのであれば、論理性のある内容や素晴らしい発言だけでは不十分。受け手である人々のハートに響くものが欠かせません。普段から分け隔てなく受け入れられるイメージを作り上げておくことも大切です。批判ばかりするとか、言論に品格がないなどと思われてしまうと、一部の熱狂的な層にしか受け入れてもらえません。デジタル時代の発信は「分断」という毒を持つ可能性があります。

VUCA時代のメガトレンドとは

「VUCA」(ブーカ)についても考えてみましょう。変動性、不確実性、複雑性、曖昧性の頭文字を組み合わせた造語です。「予測が困難な時代」の到来を意味しています。

独シーメンスが指摘するメガトレンドの考え方などは参考になるでしょう。5年後、10年後にどんな大きな変化が起こるか。本当は誰にも分かりません。分からないのだけれども、一つひとつを整理して、カテゴリーごとにきちんと勉強しておくのです。将来、分からないことが起こったとき、どんな対応をすればよいのか。言い換えると、本物・本質とは何なのかを、いま突き詰めて考えておくのです。

本質と目的を突き詰めたら

ここで「本質」という言葉を使いました。そもそも「本質」とはいったい何でしょうか。自分でも一生懸命に調べてみましたが、納得できる答えはありません。英語にも本質に見合うふさわしい単語がありません(「エッセンス」とも言い切れない)。

結局、「本質」というものは、一つではなく、たくさんあるものかもしれません。ある目的があって、それに合致した考え方や行動の一つひとつが「本質」というものではないか。そう考えると、「本質」とは、「それがないと目的が達成できないもの」と解釈したらよいのでは、という境地に至りました。

だからこそ、「目的」が大事になってくる。各界のリーダーが、どんな「目的」を持って動いているのか。私たちもそれを見極めることが大切になってくるのです。最近のソニーに代表されるように、「パーパス(目的)」を経営の柱に掲げるグローバル優良企業も増えています。

それでも、世界のリーダーの中には、まだまだ金銭や覇権ばかりを目的に据えているように思える人々がいますよね。約2500年前にアリストテレス、孔子、釈迦をはじめ数々の先人らが「何が正しいのか」という哲学的な問題に言葉を残してくれましたが、我々はまだその課題に明確な答えを持っているようには見えません。大変残念なことです。

偏狭な価値観への戒め 江戸の昔からSDGsあり

「目的」が大事だと言いました。では、これからの我々の「目的」はどのように設定すればいいのか。真剣に議論すべき時期に差し掛かっています。今こそ、中国、米国、日本という、それぞれの国家に閉じた価値観から抜け出すべきでしょう。私たちは、どうすれば世界を「より良く生きられる場所」にできるかを考えなければなりません。

企業活動においても、SDGs(持続可能な開発目標)のように、社会的意義を考えることの重要性に関して議論を始めました。SDGsは国連が主導して提唱したものですが、私は「日本から発信できたはずなのに」と、悔しく思っています。日本には300年以上も前の江戸時代から、「三方よし」という経営哲学があったのですから。「売り手よし」と「買い手よし」の満足は当然のこと。「世間よし」の言葉通り、社会に貢献できてこそ、という考え方です。まさにSDGsの思想と同じですよね。

米国も気候変動に関する国際的枠組み「パリ協定」を離脱する、などと言っている場合ではないですね。「三方よし」を大切にしてきた国の人として、自国の利益ばかり考えたり、覇権争いをしたりする者に対して、私たちはしっかりした態度を持っていたいと思います。

(聞き手は村山浩一)八木洋介
people first 代表。京都大学経済学部卒。1980年日本鋼管(現JFEスチール)入社。92年米マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院で修士号(MS)を取得。99年から米GEで日本およびアジアの人事責任者を歴任。2012年からLIXILグループ執行役副社長(人事・総務担当)。17年1月people firstを設立。

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