日経電子版オンラインセミナー「未来につなぐ国際交流~日本語パートナーズが紡ぐアジアの絆~」

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(主催:国際交流基金アジアセンター、日本経済新聞社デジタル事業メディアビジネスユニット)

特定非営利活動法人日本語教育研究所・西原鈴子理事長の基調講演と、国際交流基金が実施する日本語パートナーズ派遣事業経験者によるパネルディスカッションを開催。現在の社会状況における国際交流の意義を再確認するとともに、絆を育む国際的な活動が果たす役割、日本語パートナーズ派遣事業の魅力などについて活発な議論が交わされた。基調講演

コロナ禍における国際交流の課題と展望を考える

<講演者>

西原 鈴子 氏

特定非営利活動法人日本語教育研究所 理事長

日本語パートナーズは多文化共生社会実現への戦力に

フォト:西原 鈴子 氏

西原 鈴子 氏

現在、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、ステイホームやオンライン、リモートによる活動が奨励されています。その結果、私たちの情報収集、現状確認の多くがバーチャルで行われるようになりました。情報収集も交流も直接ではなく画面を通して行われています。

しかし、国際交流の目的とは国・地域・人種・宗教・信条・伝統・政治体制・社会規範等の境界を越えて人々が交わることで先入観や偏見から解放され、その結果として真の相互理解に基づいた平和的な共生社会を実現することにあります。そのための手段としては、国際共同研究や調査、留学、メディアの伝達などさまざまな方法がありますが、もっとも重要なものが体験です。実際にそこに住み、人と会い、見て、聞いて知識を得る。そして五感で感じる。それが国際交流においてもっとも重要なことです。

その体験の機会を提供しているのが日本語パートナーズ派遣事業です。日本語パートナーズは、アジアの中学・高校などの日本語授業のアシスタントや、日本文化の紹介を行います。短期訪問ではなく最長10カ月程度の長期滞在です。そのなかでパートナーズは地域の一般的市民生活を経験し、自身が日本文化や日本人のサンプルとして日本の暮らしや文化をリアルタイムで紹介します。そして派遣先の文化や言語を学び、帰国後も派遣先との懸け橋となり続けていただく、それが日本語パートナーズの特色です。

こうした日本語パートナーズ派遣事業は多くの成果をもたらしています。派遣先に対しては日本語教育における母語話者の日本語サンプルとなり、リアルタイムの日本文化情報を発信する役割を果たします。また現地の人々がパートナーズと接し、日本の文化や生活、仕事を知ることで対照的に自国の文化に気づくという効果もあります。パートナーズと接した人々が、将来日本との、あるいは国際的な仕事に興味を持つことも少なくありません。

一方、パートナーズ経験者は異文化について深い理解をもち、グローバルな世界観を得ることで帰国後は自身の社会参加について新たな認識を持てるようになります。また日本社会には300万人近くの在留外国人が暮らしていますが、自身が外国人として生活した経験を持つパートナーズ経験者は、日本で暮らす外国人の理解者になれます。それは日本がめざす多文化共生社会の実現への戦力になると私は確信しています。

オンラインセミナーの様子

パネルディスカッション

「日本語パートナーズが紡ぐアジアの絆」

<パネラー>

髙山 晃 氏

日本語パートナーズ インドネシア7期(活動期間:2017年8月~2018年3月)

海野 智咲 氏

日本語パートナーズ タイ5期(活動期間:2017年5月~2018年3月)

西原 鈴子 氏

特定非営利活動法人日本語教育研究所 理事長

<司会>

木佐 彩子 氏

フリーアナウンサー

自分自身が日本語・日本文化の発信者

熱い思いが、一歩を踏み出すきっかけに

フォト:髙山 晃 氏

髙山 晃 氏

木佐お二人が、パートナーズに応募した経緯、きっかけを教えてください。

髙山私が住む静岡県袋井市は比較的外国人の住民比率が高い地域です。仕事や生活をする上で日本人とのコミュニケーションが不足し、困っている人たちを助けたい。そう考えて応募しました。

木佐当時髙山さんは長年勤めていた企業を退職し、日本語教師をめざすことは大変な決断だったのではないでしょうか?

髙山ハードルは高かったですね。妻は私が会社を辞めて長期間海外に行くことにショックを受けていたようです。しかし、日本語教師になりたいことは以前から話していたので、最後はあきらめてくれました。

西原日本語パートナーズ派遣事業は69歳まで応募できるので、実は高齢の方も多く参加しています。応募者の傾向を見ると、20代と60代が2つの山をつくっています。髙山さん、海野さんはこの2つの山の代表です。

木佐海野さんは大学生から参加のパターンですね。

海野大学3年の終わりごろ、ちょうど就職活動の時期に日本語パートナーズの存在を知って応募しました。もともと私は大学時代、タイのチュラロンコン大学に留学経験があり、そのなかで大学が行う日本語授業のボランティアとして日本語を学ぶ学生との交流がありました。そこで感じたのは日本に対する知識やイメージのギャップです。実はタイと日本は太い経済的なつながりがあり、街には最新の日本製品があふれているのですが、タイの人に「日本人や日本のイメージは?」と尋ねるとステレオタイプな答えしか返ってこなくて。そうした思いがあるなかで進路を考えたとき、パートナーズとして文化的側面でタイと日本の交流の発展に寄与したいと考えるようになりました。

リアルな体験こそが日本語パートナーズの魅力

フォト:海野 智咲 氏

海野 智咲 氏

木佐派遣先ではどのような活動をしましたか?

髙山工業高校で日本語の授業のアシスタントを務めました。具体的には授業の補助と日本文化紹介活動です。書道や折り紙、年賀状の作成や餅つき体験などもしました。

海野基本は50分の授業を1日5、6コマ。朝は補習を行い、放課後は日本語コンテスト参加者への指導も行いました。苦労したのは生徒のモチベーションアップです。まずは日本文化に興味を持ってもらおうと、授業に早口言葉を取り入れたり日本文化のワークショップを開催したりしました。そうしたことを重ねるうちに徐々に日本語に興味を持ってくれるようになり、大学でも日本語を勉強しますと言ってくれた生徒もいました。自分の活動で、日本に興味を持ってくれたことをとてもうれしく感じました。

木佐プライベートの生活面はいかがでしたか?

髙山やはり文化の違いを肌で感じました。私は電車とバスを乗り継いで移動していたのですが、インドネシアの交通機関は「ほぼ」時間通りだとされています。ただ、その「ほぼ」が日本人の感覚とはかなり違っていて、電車がなかなか来ない日もあれば、予定より早く発車したりします。それでも現地の人にとっては「ほぼ時間通り」なんですね。

海野予期せぬことが多いのはタイも同じです。でも、そうした中で暮らしていると、いい意味で鈍感力が鍛えられます。私も随分メンタルが鍛えられました。個人的には2カ月かけて現地の先生と一緒に高1の生徒の家庭訪問を行ったことが印象に残っています。家庭環境も生活様式もさまざまな実際の暮らしを肌で感じることができました。

木佐草の根活動というか、リアルな体験をされているんですね。

西原それがパートナーズの大きな特色であり可能性です。企業の駐在員はその国の言葉を話せなくても生活できてしまうこともありますが、パートナーズはどっぷりとその国に浸かります。自分が外国人として生活した経験が、日本で暮らす外国人の人たちの気持ちに寄り添う活動につながるのです。

コロナ収束後に向けた、心と心をつなぐ活動を

フォト:木佐 彩子 氏

木佐 彩子 氏

木佐帰国後、パートナーズの経験は生かされていますか?

髙山現在は袋井市の国際交流協会の日本語サロンでボランティア活動を行っています。生徒の出身国は中国、ベトナム、フィリピン、ペルーなどさまざまです。パートナーズを経験する前は、なんとなく「教える立場」として生徒に接していましたが、現地で「外国人」として生活したことで、帰国後は相手の気持ちを常に考えて話をする姿勢に変わりました。ただ、現在は新型コロナ対策で参加人数を制限せざるを得ず、希望者は多いのですが、そのすべてに応えられないことが残念です。

海野訪日外国人旅行を促進するためのコンサルティングやマーケティング活動を行うインバウンドコンサルタントとして活動しています。私は大学時代から海外に関わりたいと考えていて、パートナーズを経験して、日本に行ってみたいという人、日本に行ってよかったと思ってもらえる人を増やしたいという思いがさらに強くなりました。その意味でパートナーズは私がキャリアを選択・形成する大きなきっかけ、指針になっていると感じます。

木佐今は新型コロナ対策でさまざまな制限があると思いますが、収束後に向けて現在できること、地域での多文化共生社会の実現に向けてやるべきことはどんなことでしょう。

海野訪日外国人数が回復したときのために、地方にも外国人旅行者に来てもらえるよう地域資源を生かした体験型コンテンツの開発などに取り組んでいます。また情報発信も重要だと考えています。例えば自治体、商店街でどんな感染対策をしているかといったことを在日外国人にもっと広く伝えていくなどです。口コミはとても重要です。情報発信には関係をつないでおくという意味もあります。

西原今は何らかの形で心と心をつないでおくことが大切ですね。同時にこの事業を継続し、新型コロナ収束後に向けた準備を進めておくことが重要だと思います。

髙山その通りですね。パートナーズを経験したことで私にとってインドネシアは顔が見える身近な国になりました。同じように多くの外国人にとって日本が顔の見える身近な存在になれるよう活動を続けていきたいと思っています。

西原今回お二方が話してくださった貴重な体験と同じことが、パートナーズになればみなさんにも起こり得ます。より多くの人に日本語パートナーズ派遣事業を知っていただき、ぜひ参加していただきたいと思います。

※現在は当面の間、新規募集を見合わせています。

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